じりじり上がる長期金利は危険信号か? 債券リスクと対策を解説

投資戦略

重要なのは、長期金利の上昇が預金金利の改善という表向きのメリットの裏で、保有債券の価値を確実に削る重大な危険信号である点です。

本記事では1994年の「債券大虐殺」や資金運用部ショック、VaRショックといった過去の事例を踏まえ、なぜ金利復活が一斉売りや流動性悪化を招くのかを整理し、分散投資・デュレーション管理・損失想定という実践的な対策について解説します。

「債券は安全」と決めつけず、まずは自分の保有商品がどんなデュレーションやリスクを抱えているかを確認しましょう。

長期金利の上昇は債券価格下落の危険信号

金利上昇局面で最も注意すべきは、「債券は安全資産」という思い込みが通用しなくなる点です。

ニュースで「長期金利が上昇」と聞くと、預金金利が上がる良いイメージを持つかもしれません。

しかし、債券投資家にとっては、保有資産の価値が目減りする危険信号なのです。

最近の日米の金利状況はどうなっているのか(現在の日本と米国の長期金利の状況)、そして、なぜ金利が上がると債券の価格が下がってしまうのか(金利と債券価格のシーソーのような関係性の仕組み)を、具体的に見ていきましょう。

この基本的な関係性を理解することが、金利復活時代を乗り切るための第一歩となります。

現在の日本と米国の長期金利の状況

長期金利とは、金融機関が1年以上のお金を貸し借りする際の金利のことで、代表的な指標として「新発10年物国債の利回り」が使われます。

この数値が、住宅ローンや企業向け貸し出しの金利の基準にもなっています。

長らくゼロ金利政策を続けてきた日本では、2024年に入って10年国債の利回りが1%を超える水準まで上昇しました。

これは、2013年以来、約11年ぶりのことです。

一方、アメリカではインフレ抑制のために政策金利が引き上げられ、10年国債利回りは4%台という高い水準で推移しています。

このように、日本もアメリカも「金利が動く時代」に本格的に突入しており、債券を取り巻く環境は大きく変化しています。

金利と債券価格のシーソーのような関係性の仕組み

なぜ金利が上がると債券の価格が下がるのか、それは「既に発行された債券の魅力が相対的に薄れてしまう」からです。

債券は、定期的に利子を受け取り、満期になれば元本(額面金額)が戻ってくる金融商品ですが、市場で売買される際の価格は常に変動します。

たとえば、年利1%の国債を100万円で買ったとします。

その後、世の中の金利が上昇して、新しく発行される国債の年利が3%になったとしましょう。

すると、持っている年利1%の国債を欲しがる人はいなくなります。

もし誰かに売るとしたら、100万円よりも安い価格に値下げしないと買い手がつかないのです。

このように、金利と債券価格はシーソーのように反対の動きをするため、金利上昇は既に債券を保有している投資家にとって価格下落のリスクとなるのです。

過去の教訓「金利の逆襲」が引き起こした3つの歴史的ショック

「安全資産」というイメージのある債券ですが、実は過去に金利の急上昇が引き金となって市場が大混乱に陥った事例がいくつもあります。

ここでは、特に個人投資家のみなさんが知っておくべき3つの歴史的なショック、すなわち1994年のアメリカで起きた「債券市場の大虐殺」、日本の長期金利が乱高下した「資金運用部ショック」、そしてリスク管理モデルが裏目に出た「VaRショック」を振り返ります。

これらの事例は、金利が「普通の状態」に戻ろうとする時の反動や、多くの投資家が一斉に同じ方向に動くことの恐ろしさを、私たちに教えてくれます。

1994年アメリカ「債券市場の大虐殺」

「債券市場の大虐殺(The Great Bond Massacre)」とは、1994年にアメリカで発生した債券価格の歴史的な暴落を指す言葉です。

当時、好景気によるインフレを警戒したアメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が、政策金利をわずか1年で3.0%から5.5%へと急ピッチで引き上げました。

この影響で、アメリカの長期金利の指標となる10年国債の利回りは約5.2%から一時8.0%を超える水準まで急騰しました。

この出来事は、中央銀行の金融政策の転換がいかに市場に大きなインパクトを与えるか、そして「金利が低い状態が永遠に続くわけではない」という厳しい現実を投資家に突きつけました。

日本の長期金利が急騰した「資金運用部ショック」

「資金運用部ショック」とは、1998年後半から1999年にかけて、日本の国債市場で長期金利がわずか数か月で3倍近くに急騰した出来事を指します。

当時、日本は金融危機の真っ只中にあり、長期金利は一時0.7%台という歴史的な低水準にありました。

しかし、それまで日本国債の最大の買い手であった大蔵省(当時)の資金運用部が国債の買い入れ停止を示唆したことをきっかけに、市場の需給バランスが崩れるとの懸念が拡大。

これにより、10年国債の利回りはわずか4か月ほどで2.4%台まで急騰したのです。

このショックは、特定の「巨大な買い手」の動向ひとつで市場がいかに脆く、金利が大きく変動するリスクをはらんでいるかを明確に示しました。

2003年「VaRショック」―リスク管理モデルが招いた暴落

「VaRショック」は、2003年に日本の債券市場で起きた金利の急騰劇です。

ここで重要なのがVaR(バリュー・アット・リスク)という、多くの金融機関が利用していたリスク管理の手法です。

これは「ある一定期間において、最悪どのくらいの損失が出る可能性があるか」を統計的に予測する仕組みになります。

2003年の初夏、景気回復への期待感などから日本の長期金利が上昇を始めると、各金融機関のVaRの値が急激に悪化しました。

VaRに基づいてリスク量を一定に保とうとする金融機関は、損失の拡大を抑えるために一斉に国債の売却に走ったのです。

その結果、10年国債利回りは0.4%台から一時1.6%台まで、わずか2か月あまりで4倍近くも跳ね上がりました。

本来はリスクを管理するためのツールであったはずのVaRが、多くの参加者が同じモデルを使うことで、逆に市場のパニックを増幅させる原因となってしまいました。

これは、合理的なはずの行動が重なると、かえって非合理な結果を招くという市場の怖さを示す教訓です。

金利上昇局面で警戒すべき債券市場ならではの3つのリスク

金利が上昇する局面では、株式投資とは異なる性質を持つ、債券市場ならではのリスクに注意を払う必要があります。

中でも、金利変動に対する価格の感応度を示す「デュレーション」の理解は、ご自身の資産を守る上で最も重要なポイントです。

金利変動の影響度を示す「デュレーション」という指標の仕組みから、市場参加者が一斉に売りに走ることで価格が暴落する「流動性リスク」、そして高い利回りの裏に隠された「信用リスク」まで、債券投資に潜む3つの主要なリスクを詳しく解説します。

これら3つのリスクは互いに関連し合って影響を及ぼすことがあります。

それぞれの特性を理解することで、金利が動く時代でも冷静にポートフォリオを管理できるようになります。

金利変動への感応度を示すデュレーションという指標

デュレーションとは、債券投資における「金利が1%変動した際に、債券価格が何%変動するか」を示す指標であり、実質的な満期までの平均残存期間と考えるとわかりやすいです。

例えば、デュレーションが「10年」の債券は、金利が1%上昇すると理論上、債券価格は約10%下落します。

逆に金利が1%下がれば、価格は約10%上昇する計算になります。

残存期間が長い債券ほどデュレーションは長くなる傾向があり、金利変動に対する価格の振れ幅も大きくなるのです。

自身が保有する債券や債券ファンドのデュレーションを把握することは、金利上昇局面における価格下落リスクを事前に見積もるための第一歩となります。

パニック的な下落を招く流動性リスクと「一斉売り」の恐怖

流動性リスクとは、売りたいときに買い手が見つからず、希望する価格で売れなかったり、想定以上に安い価格で売らざるを得なくなったりする危険性を指します。

2003年の「VaRショック」では、金利上昇をきっかけに多くの金融機関のリスク管理モデルが「売り」のシグナルを発しました。

その結果、市場参加者が一斉に日本国債を売ろうとしたため買い手が枯渇し、わずか数か月で長期金利が3倍近くに急騰(債券価格は暴落)する事態を招いたのです。

個人投資家が直接取引する機会は少なくても、保有する投資信託や債券ETFがこうした市場のパニックに巻き込まれる可能性は十分にあります。

市場全体の心理が一方に傾いたときのリスクを念頭に置くことが重要です。

高い利回りの裏に潜む信用リスクと為替変動リスク

信用リスク(デフォルトリスク)とは、国や企業といった債券の発行体が財政難や倒産に陥り、約束されていた利息や元本の支払いが滞ったり、返済不能になったりする危険性のことです。

例えば、新興国の国債や、格付けが低い企業が発行する社債(ハイイールド債)は、日本国債などと比べて数%高い利回りが設定されていることがあります。

この高い利回りは、投資家が信用リスクという不確実性を引き受けることへの「対価」であり、決して無条件のプレゼントではありません。

さらに外貨建ての債券であれば、為替レートの変動によって円換算での価値が大きく目減りする「為替変動リスク」も加わります。

魅力的な利回りを見つけたときは、その裏側にあるリスクの種類と大きさを必ず確認する習慣をつけましょう。

金利復活時代に個人投資家が実践すべき資産防衛策

金利が本格的に動き出した現代において、債券投資の成否は「何を買うか」だけでなく「どう持つか」にかかっています。

特に、自身のポートフォリオ全体の中で債券にどのような役割を期待するのかを再定義することが、資産を守るための最も重要な第一歩です。

ここでは、具体的な投資対象である個別債券と債券ファンドの違いを理解し、時間軸を味方につけるラダー戦略、そしてご自身の投資を客観的に見直すためのリスク管理チェックリストという3つの視点から、具体的な防衛策を解説していきます。

これらの手法と考え方を組み合わせることで、金利変動の波を乗りこなし、より安定した資産形成を目指すことが可能になります。

個別債券と債券ファンドの特性とポートフォリオでの役割分担

個別債券とは、日本国債やトヨタ自動車の社債など、国や企業が発行する債券そのものを直接購入することです。

一方で債券ファンドは、それらの債券を専門家が数十から数百銘柄集めてひとまとめにした投資信託やETFを指します。

両者の決定的な違いは、「満期」というゴールの有無にあります。

個別債券は、例えば「10年満期」と決められており、発行元が破綻しない限り、満期日には額面金額が戻ってきます。

しかし、債券ファンドには明確な満期がないため、金利が上昇を続ければ、基準価額は下がり続けるという事態も起こりえます。

ポートフォリオを組む際は、満期と償還額が確定している個別債券を「5年後の子供の教育費」といった将来の特定の支出に備える資金として活用します。

そして、いつでも売買できる流動性の高い債券ファンドを「株式市場が暴落した際のクッション役」として組み入れるなど、それぞれの特性に応じた役割分担をさせることが有効な戦略です。

時間を分散する投資手法「ラダー戦略」という考え方

ラダー戦略とは、満期(償還期間)が異なる複数の債券を、はしご(ラダー)をかけるように分散して保有する投資手法を指します。

金利がどちらに動くか予測が難しい局面で、リスクを平準化するのに役立ちます。

具体的には、ポートフォリオに組み入れる債券の満期を1つに集中させず、例えば残存期間が2年、4年、6年、8年、10年の債券を均等に保有します。

こうすることで、2年ごとに定期的に満期を迎える債券が発生し、その資金をその時点の新しい金利で、再び10年満期の債券に投資することが可能になるのです。

もし金利が上昇していれば、満期を迎えた資金でより高い利回りの債券に乗り換えられます。

逆に金利が低下している場合は、まだ満期を迎えていない残りの長期債が高い利回りを維持してくれます。

ラダー戦略は、将来の金利変動を完璧に予測することなく、その影響を和らげながら安定的に資産を運用できる、非常に合理的な考え方なのです。

あなたの債券投資を点検するリスク管理チェックリスト

これまでの内容を踏まえ、ご自身の債券投資が今どのようなリスクにさらされているのかを客観的に把握することが何よりも重要です。

まずは、保有している投資信託の目論見書や月次の運用報告書を手に取って確認することから始めてみましょう。

特に注目すべきは「デュレーション」または「平均デュレーション」という項目です。

ここに「5.5年」と記載されていれば、市場金利が1%上昇すると、その投資信託の基準価額は理論上およそ5.5%下落するということを意味します。

この数値を把握するだけでも、リスクの大きさを具体的にイメージできます。

以下のチェックリストを使い、ご自身のポートフォリオを点検してみてください。

これらの項目を一つひとつ確認し、「わからない」点をなくしていく作業が、漠然とした不安を具体的な管理可能な課題へと変えてくれます。

その課題と向き合うことが、金利復活の時代を乗り切るための、賢明な第一歩となるのです。

まとめ

この記事では、じりじりと上昇する長期金利が、預金金利の改善という表向きのメリットの裏側で、保有債券の評価額を押し下げる「静かな危険信号」になることを、過去の金利ショック事例とともに解説しました。とくに重要なのは、保有している商品のデュレーションを把握し、金利が上昇したときにどの程度の評価損が出るのかを、数字でイメージできるようにしておくことです。

  • 長期金利上昇による債券価格下落リスク
  • デュレーションが示す金利感応度の大きさ
  • 流動性悪化と「一斉売り」による下落リスク
  • 分散投資とラダー戦略を活用したリスク管理

まずは、保有している債券ファンドや個別債の目論見書・運用レポートで「平均デュレーション」を確認し、金利が1%上昇した場合の想定評価損を簡単に計算してみてください。そのうえで、債券の比率や満期の構成(ラダー)を、自分のリスク許容度に合う形に見直していくことが大切です。

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